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『黒猫の話』
暗い路地裏を、黒猫が歩いていました。

脇目も振らず、黒猫が歩いていました。


『ほら、のら、やるよ』

魚屋さんが黒猫のほうに、秋刀魚を一匹放り投げました。

『いいよ、大丈夫だから』

黒猫は見向きもせずに、行ってしまいました。


『寂しくないの? うちに来ない?』

塀の上を歩いていた黒猫に、女の子が話しかけます。

『いいよ、大丈夫だから』

黒猫は振り返りもせずに、行ってしまいました。


ある日黒猫は、白猫と出会いました。

白猫は痩せていましたが、とても美しい猫でした。


『これ、あげる』

黒猫が、自分の捕ってきたねずみを白猫のほうに差し出します。

『いいの、大丈夫だから』

黒猫は、なんとなく悲しい気持ちになりました。


『公園の土管で、雨宿りが出来るよ』

黒猫が言います。

『いいの、大丈夫だから』

黒猫は、なんとなく寂しい気持ちになりました。


『……そう』

そう呟いて、黒猫は白猫の傍を離れました。


暗い路地裏を、黒猫が歩いていました。

今日も一人で、黒猫が歩いていました。


『ほら、のら、やるよ』

魚屋さんが黒猫のほうに鮭の切り身を放り投げました。

黒猫は、自分の足元に落ちたそれをじっと見ました。

そして、魚屋さんのほうを見上げました。

『うん、ありがとう』

そう言うと、黒猫は鮭の切り身をくわえて歩き出しました。


『寂しくないの? うちに来ない?』

塀の上を歩いていた黒猫に、女の子が話しかけます。

『いいよ、大丈夫だから』

通り過ぎようとした黒猫は、ふっと、立ち止まりました。

振り返ると、ちょっと悲しそうな顔をした女の子の目をじっと見て、そして言いました。

『でも、ありがとう』

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