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『ある世界の話』
気づくと少年は見知らぬ世界に立っていた。

空からは水が流れ落ち、一面に花びらが舞っている。

辺りには心地よい香りが漂い、美しい鳴き声を響かせながら、

大きな翼を持った純白の鳥たちが、真っ青な空を横切っていった。

『忘れないで欲しいんだ』

突然後ろからかかった声に、少年は驚いて振り向いた。

そこに立っていたのは、いかにも旅人と言った風体の一人の男だった。

『……なにを?』

少年が、物寂しそうな目をしたその男に話しかける。

『この世界を。そして俺を』

男のあまりにも真に迫った様子に、少年は思わず息を呑みながら返事をした。

『……わかった』

だが男は、ゆっくりと首を振った。

『本当は、そんな奴が居ないってことはわかってんだ』

ぽつりと、吐き捨てるように一言。

そこで、思い直したようにぐいと少年の両肩をつかんで、その顔を覗き込む。

『……でも、いいかい? この世界はたとえ一瞬だけだとしても、存在したんだ。たとえほんのひと時だけでも、本物だったんだ。いいか? 覚えていてくれるか?』

その瞳の奥に、少年は自分の呆然とした顔が映っているのを見た。

瞳に映った自分が、ゆっくりと頷くのが見えた。

あまりにも深い色をしたその瞳の底に、少年は自分の意識が沈んでいくのを感じた。

だんだんと深く……。もっと深く……。




そして少年は目を覚ました。

ベッドの上。窓の外では小鳥のさえずりが聞こえる。

開け放たれた窓の外から、涼しい風が吹き込んでくる。

しばらくぼんやりと、まるではじめて見るもののように部屋をぐるりと見回した少年は……、

少年は、ふと枕もとの時計に目をやり、慌ててベッドから飛び起きた。

ぐしゃぐしゃになった布団の上に、はらりと一枚の花びらが落ちた。

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