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第六話
突然の大音響が夜の帳を突き破ったのは、それからしばらく後のことだった。城の石壁の一部が、いきなり爆発音とともに吹き飛んだのだ。

瓦解する石壁とともに地上に降り立ったのは、闇に溶け込むような黒服の男と、それに抱かれた白いドレスの女。

「しがみつくな!」
「で、ですが……!」

闇の中に、男の叱咤する声と、女のほとんど泣きそうな声が響く。

辺りに、呼び子の音がいくつも響きわたった。続いて闇の中から、呼び交わす声と、鎧を身に付けた兵士たちの走る音が迫ってくる。

暗がりの中で、男が痛烈な舌打ちを漏らした。

「逃げるぞ」

言うなり、恐ろしい速度で走りだす。

それは、人間が走っているというよりも、むしろ風が吹き抜けるのに似ていた。突風だ。耳元では轟々と風がうなり、景色が凄まじい速さで後ろへと飛び退っていく。

既に辺りからは、続々と兵士たちが集まってきていた。闇の中に、いくつものたいまつが揺れている。侵入者を逃がさないために、大人数が幅いっぱいに広がり、こちらに向かって押し寄せて来ようとしているのだ。

これが常人ならば、逃げ場も無く、間違いなく捕まってしまっただろう。

だが、男は明らかに普通ではなかった。
あっという間に城を囲む石壁まで走り寄った彼は、

「行くぞ!」

掛け声とともに、一気にその、垂直の石壁を駆け上がったのだ。腕に抱かれた女が、今度こそ大きな悲鳴を上げる。

それは、もはや人間の動きではなかった。獣にですら、その動きはとても真似できなかったに違いない。まるで、羽が生えているかのように身軽に、吹き抜ける疾風のように素早く。男が石壁を駆け上がるとともに、辺りに物凄い風が渦を巻いた。

男は、軽やかに城壁の上に降り立った。女の白いドレスが、月光の下、まるで天使の羽のように夜の闇に翻る。

何とか男に追いすがろうとしていた衛兵たちは、もはや追いかけることもかなわずに、石壁の下で、男の所業にどよめき、目を丸くし、口々に怒声を上げた。

「レギナスか!」
「おのれ! 貴様!」
「姫様が……!」

皆々怒りに剣を震わせ、今にも地団太を踏みそうな勢いだが、誰もどうすることもできない。

そのうち、衛兵たちの一人が、大声で叫んだ。

「誰か! 誰か弓兵を呼んで来い!!」

壁の上の侵入者を撃ち落とそうと言うのだろう。だが、

「馬鹿者! 姫様に当たったらどうするのだ!」

闇から飛んできた女の声が、それを遮った。張りのある、強い意志を感じさせる声だ。再びどよめいた兵士たちが、大慌てで声の主に道を譲る。

城壁の上を一息に駆け抜けようとしていた男も、何事かと振り返った。白いドレスの女が、その腕から身を乗り出し、叫ぶ。

「ローザ!」
「姫様!」

城壁の下の女も叫び返した。

それは、一人の女騎士だった。豪奢な鎧を身にまとい、一目で周りの兵士たちとは位が違うと判る。女は艶やかな栗色の髪を持ち、闇夜にもそれと判る美しい顔形をしていたが、男を睨みつけたその双眸は鷹のように鋭く、恐ろしい怒りに燃えていた。

「貴様! 姫様をさらってどうする気だ!」

女騎士は声を張り上げた。

しかし、その時にはもう、城壁の上の男には、それに答える気も、そこに留まるつもりもないようだった。最後に、城壁の下に冷たい一瞥をくれて、再び走り出す。

代わりにその腕に抱えられた女が、こう叫んだ。

「ローザ! 私は大丈夫だから!」

女騎士が再び何か叫び返すよりも前に、二人の姿は城壁の上から消えていた。

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