その頃、時を同じくして、城の一室には、白いドレスを身にまとった、まだ若い女の姿があった。天蓋のついた、白く美しいベッド。彼女は、そのやわらかなベッドの上に、ゆったりと腰を沈めていた。
それは、美しい女だった。透き通るように白い肌は、触れれば吸い付いてきそうなほどにみずみずしい。艶やかな黒髪は、整った輪郭を流れるように縁取っている。すっきりと通った鼻筋。形の良い眉。薄桃色の、つぼみのような唇。だが、何よりもその顔に彩りを添えているのは、その瞳だった。夜明け前の海を思わせる、美しい輝きを秘めた深い藍色の瞳。
ナイトドレスの薄い布地は、ほっそりとした体に添い、女性らしい、優美な曲線を描きだしている。両手は、流れ落ちる黒髪とともに無造作に身体の脇に置かれ、その左手の薬指には、荘厳な銀の指輪がはめられていた。
部屋には少しの家具しか置かれていなかった。どれも気品のあるものばかりだ。小さな大理石の円卓の上に置かれた、ガラスの花瓶。そこに活けられた一輪の百合の花に、窓の外から月明かりが投げかけられている。
女の目は、もうずっと前からそうしていたように、真っ直ぐに窓の外を見つめていた。夜空を眺めたまま、、何か物思いにふけっているようだった。ビロウドのような黒い空に、部屋の中を覗き込む満月が見える。
やがて女は、深く、長い溜息をついた。ふっと、左手の指輪に視線を移す。
暗がりの中でも、その指輪は美しい銀色に輝いていた。それは、いっそ女のか細い指輪には不釣り合いなほどの、重々しい、厳然たる指輪だった。からみつく蔦の装飾が施され、何か厳めしい紋章のようなものが刻まれている。一点の曇りもなく闇にきらめく指輪を、藍色の瞳は、どこか悲しげな様子で見つめる。
長い時間をかけて、月の光の差し込む位置が、百合の花から、彼女の座るベッドのそばへと、じりじりと近づいていった。白いサンダルをはいた足が、清かな光に照らし出される。
大理石の彫像のように、じっと指環を見つめ続けていた彼女が、わずかに身じろぎした時だった。不意に彼女は、部屋の外に何かの気配を感じた。
それは、威圧的な気配だった。扉の向こうから、押し殺した殺気が、にじむように伝わってくる。そして、それが間違いなく、だんだんと自分のほうへ近づいてくる。
「誰ですか?」
深みのある、凛とした声。女はついに口を開いた。あたりはしんと静まりかえり、誰もそれに答えない。外を駆け抜ける、風の音だけが耳に遠く聞こえる。
だが、彼女には確信があった。誰かが、外にいる。
「ローザ?」
返事は、ない。だが、気配の持ち主が、今や扉のすぐ外にまで迫っているのが、彼女にはわかった。
藍色の瞳がじっと見つめる中で、部屋の扉の取っ手が、ゆっくりと、静かに下げられた。
それは、美しい女だった。透き通るように白い肌は、触れれば吸い付いてきそうなほどにみずみずしい。艶やかな黒髪は、整った輪郭を流れるように縁取っている。すっきりと通った鼻筋。形の良い眉。薄桃色の、つぼみのような唇。だが、何よりもその顔に彩りを添えているのは、その瞳だった。夜明け前の海を思わせる、美しい輝きを秘めた深い藍色の瞳。
ナイトドレスの薄い布地は、ほっそりとした体に添い、女性らしい、優美な曲線を描きだしている。両手は、流れ落ちる黒髪とともに無造作に身体の脇に置かれ、その左手の薬指には、荘厳な銀の指輪がはめられていた。
部屋には少しの家具しか置かれていなかった。どれも気品のあるものばかりだ。小さな大理石の円卓の上に置かれた、ガラスの花瓶。そこに活けられた一輪の百合の花に、窓の外から月明かりが投げかけられている。
女の目は、もうずっと前からそうしていたように、真っ直ぐに窓の外を見つめていた。夜空を眺めたまま、、何か物思いにふけっているようだった。ビロウドのような黒い空に、部屋の中を覗き込む満月が見える。
やがて女は、深く、長い溜息をついた。ふっと、左手の指輪に視線を移す。
暗がりの中でも、その指輪は美しい銀色に輝いていた。それは、いっそ女のか細い指輪には不釣り合いなほどの、重々しい、厳然たる指輪だった。からみつく蔦の装飾が施され、何か厳めしい紋章のようなものが刻まれている。一点の曇りもなく闇にきらめく指輪を、藍色の瞳は、どこか悲しげな様子で見つめる。
長い時間をかけて、月の光の差し込む位置が、百合の花から、彼女の座るベッドのそばへと、じりじりと近づいていった。白いサンダルをはいた足が、清かな光に照らし出される。
大理石の彫像のように、じっと指環を見つめ続けていた彼女が、わずかに身じろぎした時だった。不意に彼女は、部屋の外に何かの気配を感じた。
それは、威圧的な気配だった。扉の向こうから、押し殺した殺気が、にじむように伝わってくる。そして、それが間違いなく、だんだんと自分のほうへ近づいてくる。
「誰ですか?」
深みのある、凛とした声。女はついに口を開いた。あたりはしんと静まりかえり、誰もそれに答えない。外を駆け抜ける、風の音だけが耳に遠く聞こえる。
だが、彼女には確信があった。誰かが、外にいる。
「ローザ?」
返事は、ない。だが、気配の持ち主が、今や扉のすぐ外にまで迫っているのが、彼女にはわかった。
藍色の瞳がじっと見つめる中で、部屋の扉の取っ手が、ゆっくりと、静かに下げられた。
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