墨を流したような、黒い夜空。そこに、青白く光る美しい満月が浮かんでいる。冷やかな光が降り注ぐ町並みはしんと静まりかえり、凍りついたように動かない。
閑散とした大通りに、時折、遠くで鳴くオオカミの声が響いては、尾を引いて消えてゆく。家々は墓石のように押し黙ったままじっと立ち並び、人気のない路地裏には、かすかに響く風の音しか残らない。
何もかも、その中に沈み込んでいきそうな、そんな闇夜である。
だが、静寂のベールに覆われた街の中に、たった一つだけ、煌々と明かりを灯し、眠らない場所があった。
見渡す限り広がる街並みの中心部に、月明かりに照らされてそびえたつその建物は、ため息をつくほど美しい白亜の城だった。細長い尖塔は、月光に秀麗なシルエットを描き、大地に長い影を落とす。古めかしい石壁は、長い年月にも気高い雰囲気を失わず、長く延びた蔦が、そのまま装飾となってからみついている。そして中央に据えられた本殿は、見る者を圧倒する壮麗な空気を漂わせ、暗がりの中にもはっきりとわかる存在感を持って佇んでいた。
アイジスティア城。それがこの城の名前だ。広大な領土をもつ帝国国家、アイジスティアの名を戴くこの城は、決して見た目が美しいだけの城ではない。幾度も戦火をくぐり抜け、名だたる戦士たちの侵攻を阻んできたこの城は、満々と水を湛えた深い堀と、見上げるほど高い城壁に囲まれ、鉄の門戸を固く閉ざしている。昼は城壁の上を歩き回る兵士たちが辺りを見張る目の役割を果たし、夜になれば煌々とともしびが焚かれ、侵入者を遠ざける。まさに、難攻不落とはこの城のことである。
だが、今日。この満月の晩。闇にまぎれて城に近づく、黒い影の姿があった。暗がりに光る紅い瞳。月の光を受けてかすかに輝く銀色の髪。獣のように身軽に、そして風のように素早く。誰の目に触れることもなく城壁の下にたどり着いたその影は、どのような術を使ったものか、背丈の三倍はあろうかという石壁を軽々と飛び越え、城の中へと飛び込んでいった。あたりにごうと、嵐のような風の音が響いた。
閑散とした大通りに、時折、遠くで鳴くオオカミの声が響いては、尾を引いて消えてゆく。家々は墓石のように押し黙ったままじっと立ち並び、人気のない路地裏には、かすかに響く風の音しか残らない。
何もかも、その中に沈み込んでいきそうな、そんな闇夜である。
だが、静寂のベールに覆われた街の中に、たった一つだけ、煌々と明かりを灯し、眠らない場所があった。
見渡す限り広がる街並みの中心部に、月明かりに照らされてそびえたつその建物は、ため息をつくほど美しい白亜の城だった。細長い尖塔は、月光に秀麗なシルエットを描き、大地に長い影を落とす。古めかしい石壁は、長い年月にも気高い雰囲気を失わず、長く延びた蔦が、そのまま装飾となってからみついている。そして中央に据えられた本殿は、見る者を圧倒する壮麗な空気を漂わせ、暗がりの中にもはっきりとわかる存在感を持って佇んでいた。
アイジスティア城。それがこの城の名前だ。広大な領土をもつ帝国国家、アイジスティアの名を戴くこの城は、決して見た目が美しいだけの城ではない。幾度も戦火をくぐり抜け、名だたる戦士たちの侵攻を阻んできたこの城は、満々と水を湛えた深い堀と、見上げるほど高い城壁に囲まれ、鉄の門戸を固く閉ざしている。昼は城壁の上を歩き回る兵士たちが辺りを見張る目の役割を果たし、夜になれば煌々とともしびが焚かれ、侵入者を遠ざける。まさに、難攻不落とはこの城のことである。
だが、今日。この満月の晩。闇にまぎれて城に近づく、黒い影の姿があった。暗がりに光る紅い瞳。月の光を受けてかすかに輝く銀色の髪。獣のように身軽に、そして風のように素早く。誰の目に触れることもなく城壁の下にたどり着いたその影は、どのような術を使ったものか、背丈の三倍はあろうかという石壁を軽々と飛び越え、城の中へと飛び込んでいった。あたりにごうと、嵐のような風の音が響いた。
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